出逢い茶屋始末

八月最後の出張の目的は尾上青楓改め三代目尾上菊之丞襲名舞踊会。

かねて親交を深めて来た青楓さんの一世一代の晴れ舞台である。

初日は紗の紋付きに夏袴の盛装で参る。

会場は我が古巣国立劇場。

連日歌舞伎界、舞踊会から重鎮、花形こぞっての出演で舞台も華やかなら、客席も錚々たる顔ぶれである。

私も楽屋と客席をバタバタと往来し、ご挨拶に忙しい。

初日が終わると一旦京都へ移動。

折も折、これまた親交深き上七軒の梅嘉ちゃんと市のむーちゃんが揃って出演する南座のチャリティー舞踊会がバッチリ重なってしまい、これも義理欠く事出来ず、駆け付ける。

むーちゃんは「藤娘」、梅嘉ちゃんは大曲「鏡獅子」を披露。

二人とも上々の出来でほっとする。

終わるとすぐさま東京へとって返し、襲名披露二日目の夜の部へ。

メインは十一月のごふく美馬伝統芸能の夕べでも上演する「船弁慶」。

うちのとちょうど反対の配役で、静と知盛が新菊之丞さん、対する弁慶が染五郎さんである。

いつにも増して気合いの入った染五郎さん、それを受ける菊之丞さん。二人の友情溢れる対決には目頭が熱くなった。

翌日も一日襲名公演を見て、終演後は楽屋へ挨拶に。

大舞台を勤め上げた新菊之丞さんの顔には、やりきった後の爽快さと重責を担った自戒が幾重にも折り重なっている様であった。

神経の細やかな彼だから、あれこれと反省もし、また自得のところもあろう。

しかし、満場の御客様に「末頼もしい若き家元の誕生」という一番大事なところはアピール出来た様に思う。

この山を越えて高知へ来る頃には、間違いなく一回り大きい人になっているに違いない。

世間には自分が出世したり、財産を増やしたりする事に無上の喜びを感ずる人もいるだろうが、私にとっては、染五郎さんや菊之丞さんの様な、大好きな人が段々良くなって行くのをリアルタイムで見続けて行く事くらい、嬉しい事はない。

明けて一日はまたまた京都へ。今月の大仕事、高知と東京で連続開催する創業十五周年記念展の為の仕入れに回る。

そして初日にはかねて懸案だった全国呉服店の若旦那会の初会合があった。

北は北海道から南は九州大分まで、年齢も二十五才から四十才までと幅広い集まりだったが、実に有意義な初見世であった。

最初の自己紹介で大阪府下の若旦那が、「以前から仕入先で同業者の方と一緒になっても話すチャンスが無く残念に思っていたので、今回こういう機会を作っていただいて本当に嬉しく思います」と言ってくれたので、私は涙が出るほど嬉しかった。

嬉し過ぎて、またまた飲み過ぎてしまい、先輩の威厳を見せる事もなく、早々に酩酊。

それでも老体にムチ打って夕方七時から朝五時まで頑張った。最後まで酔っ払いに付き合ってくれた若手に感謝。



出逢おうと
すれば百まで
出逢いあり
出逢いありゃこそ
生きられもする


人は別れを人生で一番辛いことの様に考え勝ちだが、実はそうではない。

別れとは、その人に出逢い、その人から与えられた事の集大成を全身で総括する事であり、それに魂揺さぶられる事こそ、最も尊い最高の人間賛歌である。
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