京の新年会第二夜

昨夜は珍しく早々に切り上げたので、今朝は早くから目が覚め、大好きな作家の、年に一度の個展に朝八時から並び、昨夜の問屋新年会で「今年は仕入れを控え、在庫を減らします!」と宣言したのとは裏腹に、仕入れる気満々である。

この作家とは伊勢崎市で実に生真面目な座繰り紬を作り続けている柴崎重一、圭一さん父子で、昨年自分がこの作家の紬を単衣で着てみて、今までの着物人生で最高の着心地に驚き、「着ていて嬉しくなる着物」という物を久しぶりに体感した。

値も買い良く、これはうちのお客さんにも広めないかん!と思ってもほとんど配給待ちの人気作家である。その親子の年に一度の個展。
柄物と帯は在庫を持っているのだが、無地がないので今日はそれが目的である。


この会のやり方は面白いもので、早い者順に席を取った後、自由に下見をさせる。そうする事によって各自狙いを定める事が出来、良くある赤札市の様に、買いもしない商品を取り敢えずガバッとつかんでから後で放す、という無駄な事をしなくて済む。

この下見が済んでから椅子に座って待っていると、私より先に来場されていた群馬県の呉服店の女将さんが声を掛けて下さり「美馬さんですよね。私いつもブログを拝見して、感心しております」とのお言葉。
時々、思いがけない方からそう言われる事はあるが、仕入先で同業者の方に言われたのは初めてである。

ほとんど呉服の事は書いていず、好き放題の言い散らしの駄文に対し、母に近い年代(失礼に当たるといけないので記しておくが、うちの両親はともに戦後生まれである)の業界の先輩にお声掛けいただき、汗顔の至りであった。

仕入先で合う同業者の中にも、疑問符を付けざるを得ないような取り合わせ、着こなし、センスの人が多々いるが、鉄紺地に金彩の色紙模様の付け下げに大胆な帯を合わされた女将さんは確固たるご自分のきもの世界を持っておられ、御得意先からさぞ厚い信頼を受けてご商売されていらっしゃる方であろう事が察しられた。

いよいよ五分前となり緊張が走る中、先着順一番の群馬の女将さんに二番の九州の旦那さんが「奥さんどれ行きます?」と尋ねる。女将さんは正直に「私は正面に」と突き当たりに陳列してある絵羽を取りに行く事を明かす。
「じゃあ私はあれを」と九州が言い、ともに正面の部屋が狙いである事が判明する。と今度は九州の旦那が私に「おたくはどれ行きますか?」と聞いて来る。三番手の私はもちろん左の部屋の無地狙いだが、後ろに四番手、五番手が控えており、しかもその中には夫婦の組があるから左右に分かれて取りに行く作戦が当然予想され、こちらの狙いを明かす事は出来ない。
私は内心「そんな事言えるか!」と思いつつ「まだ決めてません」と白化ける。

ゴングが鳴る。「皆様どうぞ走らずゆっくりと」と問屋は言うが小走りになる。

まずは下見の間にあらかじめ固めてあった無地四本をガバッと抱え、次いで陳列してあった一本を引きずり下ろし、今度は正面の部屋の縞を取りに走る。
この間数十秒。
無事目的は達成された。

おかげで朝イチから「狩りモード」全開となり、行く問屋行く問屋で夏物から冬物から帯からコートから、買うわ買うわ「何が今年は仕入れを控えますじゃ!どの口が言うた?」と言う他はない歯止めの無さである。

余裕のある経営をしたい、と常々思っているにもかかわらず、ついつい商品好きの「買い魔」が出てしまう。
二十代で初めて仕入れに来た頃から、さんざん見た後で又帰りがけに商品をいじり出すので「美馬さんはホントに商品が好きですね」と問屋に言われ「好きでないモン何で売れる?」 と言い返して来たが、商売としては、あんまり好き過ぎるのも考え物である。

そう言いつつ時折棚の中を見回し「まー、ええ柄ばっかし!」と悦に入るのだから、もうこれは病気である。

だいぶん前置きが長くなったが、新年会の第二夜である。


今宵は昨年やっと結成した全国の若手呉服屋の会の新年会。
前回から出席の五人と今回から参加の三人、オブザーバーの藤井社長を加え、北は札幌から南は九州長崎まで、総勢九人の集まりである。
仕立てや寸法、紋の事など、普段同世代で話す事が無いであろう専門の話題に、皆熱くなって盛り上がる。

いないと思っていた同世代の同業者がこんなにいる、と思ったら心強い。私以外はみな何代目かの跡継ぎだが、それぞれにカラーがあり、夢や希望を持ってこの業界で頑張って行こうと精進しているメンバーである。
いずれ節目の年には何か世間をアッと言わせる花火を打ち上げたいと思っている。

一次会は大いに盛り上がり、日帰り組は別れを惜しみながら帰路につき、泊まり組は宮川町に繰り出して二次会となる。
カラオケでまたまた盛り上がり、二時には散会。それでも終わらず石原君と高橋君を引き連れて祇園の「おかる」へ夜食の三次会。






高橋君は中華そば、石原君はうどん、私は赤だしとおむすびをそれぞれ注文し、私はさらにカレーうどんを頼もうと思ったら何と「終了」と言われ、腹立ちや!(ここのところ義太夫の調子で)
「そんなもん、ちゃんとラストオーダー聞きに来んかい!」とゴネてみたが、あっさり却下。

諦めて高橋君を送り、同宿の石原君を相手に部屋飲みとなり、四時半にギブアップ。

中年に差し掛かって、昔の様な飲み方は出来ぬが、こういう嬉しい会はまた別趣である。私にしては奇跡的に早起きして一日九軒も仕入れに回り、明け方近くまで飲んだ。こんだけやったら明日の反動は目に見えている。

しかし私は「毎日同じ」には耐えられない人間であり、「メリハリ」こそ我が本文である。


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