東奔西走十泊の旅 その一

一月も末となり、一段落着いたと思ったら十泊の長旅の始まり。
まずは東京、国立劇場での「俳優祭」に。
染五郎が初役で「太十」の光秀を演じるとて、何を於いても駆け付けねばと馳せ参じる。
「陰影」というものを持っている点でまずは光秀役者である。
無論、母親に「人非人」と断罪されながら、あくまで自らの悲愴な生き様(ざま、というのは否定の語である。良く誰々の生きざまに憧れる、などと言うが明らかな間違いであり、同じ様に、死にざま、というのは野垂れ死に、無駄死にの時に使うのであって決して誉め言葉ではない。あのざまは何だ、ざまー見ろ、ぶざまな最期など。光秀はあくまで謀叛人として描かれており、英雄ではない)を貫く姿を骨太のタッチで描き、全編を引っ張って行く力業を三十代で求めるのは酷である。それは仕方無い。
しかし、一家の悲劇を目の当たりにして不動の構えでウケている「ハラ」は、私には通じた。年を重ねての再演に期待する。
梅枝の初菊はする事にソツがなく、年齢からすれば大出来だが、もうひと刷毛愛嬌が欲しい。悲しい中にも若い性の迸りが。
続いて若手立役連による「殺陣田村」。
飛び抜けて勘太郎がいい。瞬発力、気合い、一点に賭ける自爆テロ的必殺の気合い。
長い休憩となり館内に模擬店が目白押し。
仁左衛門、團十郎、勘三郎ら人気役者の売る弁当、焼きそば、甘酒、お汁粉などが大人気で長蛇の列。目当ての役者目掛けて突進する女性軍の熱気で場内は蒸せ返り、とても立ってはいられぬ。
三幕目は幹部総出演による質蔵を舞台にした舞踊。成田屋の金太郎が客席の喝采を浴び、時蔵が男女を巧みに踊り分けて腕を見せる。中村屋もかなり復調した様子。

終演後は寿司をかっこんで東京駅へ。一路京都へ向かい、明日に備えて大人しくホテルへ直行する事に。


京都駅に着いたところでふく笑ちゃんの節分の染帯をパチリ。


明けて29日となり、南座での尾上青楓改め三代目尾上菊之丞襲名披露公演の二日目。先斗町名妓連に加え、尾上流名取の面々が華やかに若い家元の襲名を寿ぐ。


楽屋を訪ねると、家元夫人が当店の宝尽くしの付け下げで迎えてくれる。グレーのボカシが華やかなお顔立ちを一層引き立てて美しい。
客席も先斗町はもちろん、五花街のおねえさん達がずらりと並び、舞台に劣らぬ豪華さである。


終演後は南座近くの「一道」さんへ。ここは鉄板焼の店だが、肉の前に一捻りした料理が並ぶ。言うなればステーキ懐石か?




ほうれん草のスープの後、ふぐのカルパッチョ、お造り、からすみと蓮根餅のお椀と続く。


眼前にメインの牛肉とブリがダダーンとお披露目される。


穴子ごはんの後、ぶり大根。見た目はしつこそうだが、以外にあっさりである。


この後ステーキとなり、ガーリックライス、おばんざい三趣、吸い物、香の物となる。
ガーリックライスは大将によると、お客の目の前で焼くので冷やご飯をボールに入れて出すのが見た目が悪いので、ジャーから熱々を出して焼いているとの事だが、あまりにパラパラを意識し過ぎて水分が飛び過ぎている。冷飯も上等の笊に入れて出して来れば反って食欲が増す様に思うが。
最後に出た漬物が絶品で、白ご飯とともにおかわりする。


サブの若いおねえさんが漬けていると言うのでびっくり。

ラストオーダー十時半、しかも日曜にやっている貴重な店であり、終演の遅い顔見世の後の食事に、心強い行きつけが出来た。

食後は綺麗どころと分かれ、むーちゃんとバー「クーゲル」さんへ。毎月お邪魔しているK6の系列店である。


ここのアプローチが素晴らしい。「ベストテン」に出た様な気分である。知らず知らずジュディ・オングに成り切り「魅せられて」を熱唱。

かくして十泊の内、二泊が終わった。明日は早起きして神参りである。
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