ひばり

久方ぶりにひばりを観る。聴く。

去年の暮れに録画してあったNHKの特番。没後七回忌辺りまではよかったが、その後は同じネタの繰り返しでファンとしてはうんざりだったが、この特集は良かった。切り口を変えて作詞作曲家ごとに一くくりとし、稀な曲もあり、企画として上出来である。

しかし十代からひばりに耽溺して来た者の一人として、やかましい事を言えば、ひばりと言えども時代時代によって芸の表現の浮き沈みはある。

スランプ時にやたらに押し付けがましく技巧を誇る歌唱は、決してひばりの本領ではない。

最晩年の、紫紺のドレープのドレスを着て、闇の中にスポット一つで浮かぶという、一切の飾りを取り払った秀逸極まりない演出で唄った「悲しい酒」の、押し付けも誇りもせず、ただただ狂おしい姿こそ、歌というものが本来魂鎮めの為にあるのだという事をまざまざと教えてくれる。

能や歌舞伎や文楽などの古典芸能と同じように、つまるところ、さんざやり切った人のみ到達出来る無我の境地。今さら人の目も、評判も、何も気にならなくなれた、自由の身になった者しか手に入れる事の出来ない登仙の世界である。

出ず入らず。本当に昔の人の言う事くらい、間違いのない事はない。
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