惜別

また一人、私にとってかけがえの無い役者が逝った。

小林桂樹。私の好きな男優の中で、いわゆる大スターでなく、渋どころの御三家というのが有って、芦田伸介、中条静雄、それに小林桂樹がその三人である。

中でも小林さんは映画の主演作も多く、広く一般に知られた存在であるが、この優の本当の値打ちというものは、案外誰にでも分かるという類のものではなく、その意味で小林さんという人は最大の「解されざる者」ではなかったか?

私は社長シリーズの秘書を見ていても、小林さんの中に、小市民の中にあるエゴを感じて、笑いながら凄みを感じる事さえある。
あんな芝居は、並の役者の十倍脚本を読み込み、役を与えられるごとに人間観察を深める精進をしなければ到底手にする事の出来ぬ物である。
その人にして、もっともらしい演技論などは残していない。尊敬おくあたわざる不言実行の人である。

今の日本人に最も欠けている、「言い訳をせぬ」つよい心を貫き通した人である。

「我一粒の麦なれど」
「冬の桃」
「おにいちゃんの通信簿」

私の小林桂樹三絶である。
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