酔言猛語

歳の食い様

初回以来ノーコメントだった龍馬伝。全出演者の中で一番土佐弁の下手な福山はともかく、脇役勢になかなかいい味出してる役者がいて、ぶつぶつ言いながらも毎週録画。

容堂を演じる近藤正臣が、いかにも酒豪であり、一筋縄でいかぬ政治家のしぶとさを表して秀逸。若い時から大根であったこの優が、歳を取ってこういう仕事をする所が役者稼業の面白い所である。山瀬まみと川に浮かんで以来の会心の出来である。

トレンディドラマ以後、中高老年の役者など刺身のツマ程度にしか扱われて来なかった日本のテレビドラマの中で、大河こそは最後の砦、せめても仕甲斐のある仕事の場であろう。そもそも日本の演劇映画ドラマは、どこかで老人がピリッと薬味を効かせない事には始まらないのである。

続く世代では杉本哲太がいい。この人若い頃は暴走族くずれのあんちゃんだったが、十年ちょっと前からめきめき演技の頭角を表し、今ではほぼ名優の域に達している。決してやり過ぎずに、その役の伝えるべき物を全て伝え、人生まんざらでもないよ、と言うような余韻まで残す。こんな優はざらにいるものではない。溝口健二に言わせれば当たり前の事だが、この優は顔で芝居をしない。全身でする。五十六十七十と、どんどん深みを増して行くだろう。

そして若手で大当たりを取ったのが佐藤健である。今回の以蔵の造形にはもってこいの素材であり、「野良犬」という言葉がぴったりの、ギラギラした目付きと、全身から湧き出る渇望感は、すれっからしの私の心さえ動かすものがあった。ある意味この以蔵は、大変な反戦劇の主役とも言えるのである。そして、「認めてもらいたい」という、現代社会に最も通じる若者の叫びを、リアルに演じた事は、この優の大きな財産になろう。