鮎を食らう
二月の月鍋に続く比良山荘第二段は満を持しての鮎入りコースである。
先付が憎い。温かい蓴菜とおいでなすった。夏の初めから、冷たい蓴菜を出す店はいくらもあるが、ここは流石に裏をかく。ここからすでに、この店が単なる山の宿ではない事を物語っている。名こそ山の辺だが、その実風雅な物であり、いわば鮨屋の弥助実ハ三位中将維盛とうわけで、つまりやつしである。
八寸では鮎のうるか和えが酒飲みの心をそそり、鯉の子の全くクセの無いのに驚く。
造りは竹盛りで今日は鯉と岩魚。鯉の酢味噌も美味いが、岩魚が格別。
そして熊入りの丸鍋が出た。熊とスッポンを一つ椀にして出すなんて店はおそらく日の本中にあるまい。これが絶品。雪中に感激した熊公に、こうして夏場ちらっと御目見え出来るあたりがこの店の懐の深い所である。
鮎は期待に違わぬ香ばしさ、鮎ご飯も上々だが、私には今少し蓼酢の酸味が欲しかった。鯉こくもしごくあっさりして上々。鄙には希な店とはここの為にある言葉ではある。